動画配信サービスの音質比較 (アニメ編)

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まえがき

動画配信サービスの品質とはなんだろう。映像に関してはFHDか4Kか、SDRかHDRか、HDR10かDolby Visionか、といったところだろうか。音に関してはステレオか5.1chかDolby Atmosか、ぐらいだろうか。

動画配信サービスでは品質というよりも通信データ量の目安のために映像と音声の総合ビットレートが表記されることはあり、そこから映像のビットレートならある程度推測できるが、音のビットレートはそれだけではわからない。

一部のサービスは音のビットレートも開示されていたり、一部の環境で確認する手段があったりもするが、全てではないし、たとえビットレートが同じであってもコーデックやエンコーダーによっても音が変わってくる。そこで、実際に各サービスの音を聴いて、その質を比較することとした。

実験対象 & 実験環境

サービス

今回はNetflix、Prime Video、ABEMA、dアニメストアの4サービスを比較。当然各サービスの最高画質・最高音質で比較。Netflixは最上位のプレミアムプラン、ABEMAは有料会員のABEMAプレミアム。

コンテンツ

今回はアニメで比較することとした。主に「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」「ノーゲーム・ノーライフ」「五等分の花嫁」「かくしごと」「ぼくたちは勉強ができない!」で比較。いずれもステレオ(2ch)音声。

ソースデバイス

PC、スマホ、ストリーミング端末、BDレコーダーの4環境で比較。PCはIntelのNUC8i3BEHで、OSはWindows 10 (2004)。スマホはSonyのXperia XZ2 Premium SO-04Kで、OSはAndroid 10。ストリーミング端末はGoogle Chromecast (第3世代)。BDレコーダーはPanasonicのDIGA DMR-4W200。4W200はAndroid TVやFirefox OSといったリッチなOSは搭載していないが、2019年夏モデルであり、そこまで古いものを使用しているわけではない。

PCでは基本的にブラウザで視聴している。Netflix以外のサービスは品質がブラウザに依存しないので、Google Chromeを使用。NetflixはWindowsだとMicrosoft Edge / Edge (Chromium)だと1080pで再生できるが、Chromeだと720pまでに制限されるため、Edge (Chromium)とChromeの両ブラウザにて検証している。NetflixにはUWPアプリもあるので、こちらも対象とした。

スマホに関しては全て公式アプリで検証。ABEMA以外(dアニメストア、Prime Video、Netflix)のビットレートは、アプリのダウンロード機能で落としたファイルを確認。複数の作品を落としてその最頻値を記載している。

オーディオ機器

AVアンプ(YAMAHA RX-V781)に繋いだスピーカー(YAMAHA NS-B330)とイヤホン(FAudio Minor)で比較。PC、Chromecast、BDレコーダーはHDMIでAVアンプと接続。

Xperia XZ2 Premiumに関しては、MHLやDP Alt Modeに対応しないためAVアンプに直接入力できない。そこで、USB DACモードのWalkman ZX300に接続し、シングルエンド(アンバランス)側の出力をRCAに変換してAVアンプに入力。

また、Xperia XZ2 Premiumの内蔵スピーカーでもビットレートごとの音の違いかわかるかどうかも別途検証している。

もちろん、AVアンプ、Walkman、Xperia、DIGAの高域補完技術はオフにして検証。

ラベルについて

「表示上」と付いている値は何らかの方法で実際のビットレートを確認できた値であり、「聴感上」とついている値は実際に聴いて感じた値。後者はあくまで推測値なので、参考程度にとどめていただきたい。検証は2020年6月23日〜28日に行い、アプリやブラウザは当時の最新版を使用。もしかしたら今後、改善(もしくは改悪)しているかもしれない。

Windows PC

Netflix

表示上: 128kbps
聴感上: 128kbps?

コメント: 比較しなくても音が破綻しかけているのが分かる程度。ハイハット等の超高域がほぼ完全に潰れ(シャリシャリする)、女性声優の声も一部かすれる。Prime Videoと同程度、dアニメストアやABEMA未満。ブラウザとUWPアプリ共通で Ctrl + Shift + Alt + D のショートカットキーで現在のビットレート等を確認することができる。Edge (Chromium)、Chrome、UWPアプリで表示上のビットレートや実際の音に変わりはなかった。

Prime Video

表示上: なし
聴感上: 128kbps?

コメント: 比較しなくても音が破綻しかけているのが分かる程度。Netflixと同程度で、dアニメストアやABEMA未満。僅かな差だが、作品によってはNetflixより劣っているように感じられることもあった。

ABEMA

表示上: なし
聴感上: 160kbps?

コメント: 悪くはないが、じっくり聴くとdアニメストアと比べてハイハットがやや潰れかけている、ギターの弦の歯切れの良さや滑らかさなどがやや劣っている、金管楽器のみずみずしさがやや損なわれているのが感じられる。Prime VideoやNetflixよりは確実に上。

dアニメストア

表示上: 192kbps
聴感上: 192kbps?

コメント: ABEMAよりやや優れる。Prime VideoやNetflixよりは確実に上。プレーヤー上で音声を128kbpsか192kbpsか選択可能。

Android端末

Netflix

表示上: 96kbps
聴感上: 96kbps?

コメント: なぜか96kbpsにまで落ち、実際聴いても流石に違和感を覚えるレベルで明らかに音が劣化している。ここまで酷いと、スマホのスピーカーで聴いても十分劣化しているのがわかる。

Prime Video

表示上: 128kbps
聴感上: 128kbps?

コメント: PC版と相変わらず。96kbpsほどではないが、スマホのスピーカーで聴いても192kbpsとの差は分かる。

ABEMA

表示上: なし
聴感上: 160kbps?

コメント: PC版と相変わらず。128kbpsほどではないが、特定音源においてはスマホのスピーカーで聴いても192kbpsとの差は辛うじて分かる。

dアニメストア

表示上: 192kbps
聴感上: 192kbps?

コメント: PC版と相変わらず。映像・音声のトータルのビットレートはヘルプページ曰くスマホはPCに比べ低くなっているが、音声はそのままのようである。

Chromecast (第3世代)

Netflix

表示上: なし
聴感上: 96kbps?

コメント: スマホ版と相変わらず。なぜ固定回線前提のChromecastでビットレートを絞るのだろうか。

Prime Video

表示上: なし
聴感上: 128kbps?

コメント: PCやスマホと相変わらず。

ABEMA

表示上: なし
聴感上: 160kbps?

コメント: PCやスマホと相変わらず。

dアニメストア

表示上: なし
聴感上: 128kbps?

コメント: ここに来てdアニメストアの音が落ちるのが意外だった。しかもABEMA未満。なぜ固定回線前提のChromecastでビットレートを絞るのだろうか。ChromecastはPCでのブラウザ視聴に比べ音の排他出力が可能になるというメリットはあるが、そもそものビットレートが下がっている(と思われる)ので、結果的に音は悪く感じられた。

BDレコーダー (独自OS)

Netflix

表示上: なし
聴感上: 64kbps?

コメント: 今どきニコニコ動画でも聞けないような酷い音をしていた。が、どの作品を観ても2chのソースにも関わらず5.1chとして(アップミックスなどではなく、センター/サラウンド/LFEは空の状態で)送られていたし、やや音割れが発生していたので、そもそも音周りが何かおかしいと思う。Prime Videoでは問題なかったので、レコーダー本体ではなくレコーダーのNetflixアプリになにか問題を抱えていそうではある。

Prime Video

表示上: なし
聴感上: 128kbps?

コメント: PCやスマホ、Chromecastと相変わらず。

ABEMA

(非対応)

dアニメストア

(非対応)

まとめ

表示上のビットレート

Windows Android Chromecast レコーダー
Netflix 128kbps 96kbps
Prime Video 128kbps
ABEMA
dアニメストア 192kbps 192kbps

聴感上のビットレート (推測)

Windows Android Chromecast レコーダー
Netflix 128kbps 96kbps 96kbps 64kbps
Prime Video 128kbps 128kbps 128kbps 128kbps
ABEMA 160kbps 160kbps 160kbps
dアニメストア 192kbps 192kbps 128kbps

総評

アニメの場合コンテンツ数、価格、音質的にdアニメストアが最強…と言いたいところだが、Chromecastのみ音が劣るのがいただけない。Fire TVではどうなるのかが気になる。ABEMAはdアニメストア(192kbps)と比べるとやや劣化しているのが分かってしまうが、比較せずにそれ単体で聞いて劣化が分かるほどでなく、十分許容できる範囲である。

だが、128kbps以下になるとそろそろ比較しなくても音が劣化しているのが分かってくるので、Prime VideoやNetflixにはもう少し頑張っていただきたい。特に、Netflixは少なくとも128kbpsの音源を保持しているにも関わらず、プレミアムプランであっても環境によっては64kbpsや96kbps程度の音しか提供しないのは流石に舐めているとしか思えない。

Prime VideoやNetflixは4KやHDRに対応するのもいいが、もう少し音質にも目を向けていただきたいものである。

クソ長余談

日本のテレビ放送は、内容の質や画質はともかく、音のビットレートはそれなりに担保されている。ステレオだと副音声がある場合などを除き、基本的に192kbpsを下回ることはない。深夜アニメをたくさん放送しているBS11など、局によっては256kbps出すところもある。

Netflixでは公式ブログで「スタジオ音質」などと言っているが、今回のステレオでの検証結果では最高でも128kbps、環境によっては64〜96kbps程度と非常に乏しい。「やーいNetflixの音質、サンテレビ(兵庫の独立局、256kbps)の半分以下ー!」という煽りが通用してしまう。果たしてこんなビットレートで「スタジオ音質」と呼べるのだろうか。

Netflixは、5.1chやDolby Atmos(以下Atmos)の音源はDolby Digital Plus(以下DD+)、2chではDD+に加えMPEG-4 AACも使用しているようである。公式ブログでは5.1chで最大640kbpsと述べているが、それは単に5.1chのDD+の上限を示しているだけに過ぎない。2ch音源の音質に至っては無視されているようにすら感じられる。

確かにDD+はDVD-Videoの448kbpsに制限されたDolby Digital(以下DD)より音はいいが、そもそも音にこだわるDVDでは最大1536kbpsのDTS Digital Surround(以下DTS)を使っている。それに比べれば、DD+(640kbps)なんてDVDのDD(448kbps)に毛が生えた程度である。

しかも、DD+(Enhanced AC-3)の圧縮技術や圧縮効率自体は、35mmフィルム時代から使われているDD(AC-3)から変わっていない。そのため、DD+はモダンな圧縮技術と比べると、その効率は劣る。動画配信サービスは、そろそろ次世代フォーマットのDolby AC-4(以下AC-4)に移行していただきたいものである。AC-4でも7.1chやAtmosに対応可能である。

また、DD+対抗で7.1chやDTS:Xを扱うことができるDTS-HD High Resolution Audio(以下DTS-HD HR)という規格も存在し、これはBDの場合最大6Mbpsのビットレートを有する。だが現実としてDTS-HD HRもDTS:Xもあまり流行ってはいないので、これが再び脚光を浴びるとは思えないが…。

DD+にしろAC-4にしろDTS-HD HRにしろ、結局はロッシー圧縮である。それに対し、Netflixが目指しているのは「スタジオ音質」である。音楽分野では(実際の質はともかく)「ロスレス!」「ハイレゾ!」と叫ばれる中で、「スタジオ音質」を謳っているにも関わらずロッシー圧縮を使用するのは、時代に逆行しているように感じられる。

「スタジオ音質」を謳うぐらい音質をウリにしたいしたいのであれば、Dolby TrueHD(以下TrueHD)やDTS-HD Master Audio(以下DTS-HD MA)などのロスレス圧縮で提供すべきではなかろうか。これらも7.1chに対応可能だし、TrueHDはAtmosのコンテナとして、DTS-HD MAはDTS:Xのコンテナとしても利用可能である。

特に最近はTIDAL、Deezer HiFi、Qobuz、Amazon Music HD、mora qualitasなどロスレス音源(ハイレゾ音源含む)のストリーミングサービスも開始し、更に一部はDolby Atmos Musicや360 Reality Audioなどにもいち早く対応するなど、それまでなんとなくの雰囲気としてあった「定額使い放題系のストリーミングなんて低い品質で十分、品質を求めるならちゃんと買え」という風潮もどんどん変わってきている。

成人向け漫画雑誌を、買い切りの電子書籍と同等かそれ以上の画質で、それも一部は紙の発売日と同日(これは基本的に電子書籍の発売日より早い)あるいは紙の発売日よりも多少フライングする形で配信し、更に配信ならではの要素として作品ごとに書き込めるコメント欄を設けているKomifloだってそうだ。定額使い放題系のストリーミングサービスは、ライフスタイルなどの変化に伴い、「安かろう悪かろうを受け入れて使うサービス」から「便利な一つの手段」に変わってきているのである。

日本の新4K8K衛星放送では(実際の品質や運用、ビットレートはともかく)4K/HDR/WCGなど映像の進化だけでなく、音声に関しても7.1chや22.2chに対応したり(ただしロッシー圧縮のMPEG-4 AACのみ)、ロスレス圧縮のMPEG-4 ALSに対応したりしている(ただし5.1chまで)。

それに対し動画配信サービスはどうだろう。映像は(ビットレートはともかく)4K/HDR/WCGには対応したものの、音声に関してはせいぜいAtmosに対応したぐらいであり、根本的な音質に関しては改善される様子がない。

流石に今すぐ全作品をロスレス音声で配信することはコンテンツ供給側の思惑もあってすぐには難しいだろうが、少なくともアニメに関してはABEMAやdアニメストアでは既に160kbps~192kbpsで配信されているので、NetflixやPrime Videoなら(言い方は悪いが)金の力で192kbps程度の音声を配信するのは容易なはずである。

日本のテレビ放送に音質面で劣り続けている各動画配信サービスは、もっと音の品質にも目を向けてもらいたいものである。

井戸水

ガジェット、オーディオ、映画館が好きな情報系の大学生。

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