動画配信サービスの音質比較 (アニメ編)

最終更新日

※この記事は2020年6月時点の情報をもとにしているため、現在は変動している可能性があります。

まえがき

動画配信サービスの品質とはなんだろう。映像に関しては FHD か 4K か、SDR か HDR か、HDR10 か Dolby Vision か、といったところだろうか。音に関してはステレオか 5.1ch か Dolby Atmos か、ぐらいだろうか。

動画配信サービスでは品質というよりも通信データ量の目安のために映像と音声の総合ビットレートが表記されることはあり、そこから映像のビットレートならある程度推測できるが、音のビットレートはそれだけではわからない。

一部のサービスは音のビットレートも開示されていたり、一部の環境で確認する手段があったりもするが、全てではないし、たとえビットレートが同じであってもコーデックやエンコーダーによっても音が変わってくる。そこで、実際に各サービスの音を聴いて、その質を比較することとした。

実験対象 & 実験環境

サービス

今回は Netflix、Prime Video、ABEMA、dアニメストア の4サービスの最高画質・最高音質設定で比較を行った。Netflix は最上位のプレミアムプラン、ABEMA は有料会員の ABEMA プレミアム。

コンテンツ

今回はアニメで比較することとした。主に「青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない」「ノーゲーム・ノーライフ」「五等分の花嫁」「かくしごと」「ぼくたちは勉強ができない!」で比較。いずれもステレオ (2.0ch) 音声。

ソースデバイス

PC、スマホ、ストリーミング端末、BD レコーダーの4環境で比較。PC は Intel の NUC8i3BEH で、OS は Windows 10 (2004)。スマホは Sony の Xperia XZ2 Premium SO-04K で、OS は Android 10。ストリーミング端末は Google Chromecast (第3世代)。BD レコーダーは Panasonic の DIGA DMR-4W200。4W200 は Android TV や Firefox OS といったリッチな OS は搭載していないが、2019年夏モデルであり、そこまで古いものを使用しているわけではない。

PC では基本的にブラウザで視聴している。Netflix 以外のサービスは品質がブラウザに依存しないので、Google Chrome を使用。Netflix は Windows だと Microsoft Edge / Edge (Chromium) だと 1080p で再生できるが、Chrome だと 720p までに制限されるため、Edge (Chromium) と Chrome の両ブラウザにて検証している。Netflix には UWP アプリもあるので、こちらも対象とした。

スマホに関しては全て公式アプリで検証。ABEMA 以外(dアニメストア、Prime Video、Netflix)のビットレートは、アプリのダウンロード機能で落としたファイルを確認。複数の作品を落としてその最頻値を記載している。

オーディオ機器

AV アンプ (YAMAHA RX-V781) に繋いだスピーカー (YAMAHA NS-B330) とイヤホン (FAudio Minor) で比較。PC、Chromecast、BD レコーダーは HDMI で AV アンプと接続。

Xperia XZ2 Premium に関しては、MHL や DP Alt Mode に対応しないため AV アンプに直接入力できない。そこで、USB DAC モードの Walkman ZX300 に接続し、シングルエンド(アンバランス)側の出力を RCA に変換して AV アンプに入力。

また、Xperia XZ2 Premium の内蔵スピーカーでもビットレートごとの音の違いかわかるかどうかも別途検証している。

もちろん、AVアンプ、Walkman、Xperia、DIGA の高域補完技術はオフにして検証。

ラベルについて

「表示上」と付いている値は何らかの方法で実際のビットレートを確認できた値であり、「聴感上」とついている値は実際に聴いて感じた値。後者はあくまで推測値なので、参考程度にとどめていただきたい。検証は2020年6月23日〜28日に行い、アプリやブラウザは当時の最新版を使用。もしかしたら今後、改善(もしくは改悪)しているかもしれない。

Windows PC

Netflix

表示上: 128kbps
聴感上: 128kbps?

コメント: 比較しなくても音が破綻しかけているのが分かる程度。ハイハット等の超高域がほぼ完全に潰れ(シャリシャリする)、女性声優の声も一部かすれる。Prime Video と同程度、dアニメストア や ABEMA 未満。ブラウザと UWP アプリ共通で Ctrl + Shift + Alt + D のショートカットキーで現在のビットレート等を確認することができる。

(追記) 後日 Netflix の UWP アプリで 192kbps 出ることを確認したが、確認時期がこの記事の公開から約1年後であるため、比較対象とはしないものとする。今後機会があれば、また同様の比較を行いたい。

Prime Video

表示上: なし
聴感上: 128kbps?

コメント: 比較しなくても音が破綻しかけているのが分かる程度。Netflix と同程度で、dアニメストア や ABEMA 未満。僅かな差だが、作品によっては Netflix より劣っているように感じられることもあった。

ABEMA

表示上: なし
聴感上: 160kbps?

コメント: 悪くはないが、じっくり聴くと dアニメストア と比べてハイハットがやや潰れかけている、ギターの弦の歯切れの良さや滑らかさなどがやや劣っている、金管楽器のみずみずしさがやや損なわれているのが感じられる。 Prime Video や Netflixよりは確実に上。

dアニメストア

表示上: 192kbps
聴感上: 192kbps?

コメント: ABEMA よりやや優れる。Prime Video や Netflix よりは確実に上。プレーヤー上で音声を 128kbps か 192kbps か選択可能。

Android端末

Netflix

表示上: 96kbps
聴感上: 96kbps?

コメント: なぜか 96kbps にまで落ち、実際聴いても流石に違和感を覚えるレベルで明らかに音が劣化している。ここまで酷いと、スマホのスピーカーで聴いても十分劣化しているのがわかる。

Prime Video

表示上: 128kbps
聴感上: 128kbps?

コメント: PC版と相変わらず。96kbpsほどではないが、スマホのスピーカーで聴いても192kbpsとの差は分かる。

ABEMA

表示上: なし
聴感上: 160kbps?

コメント: PC 版と相変わらず。128kbps ほどではないが、特定音源においてはスマホのスピーカーで聴いても 192kbps との差は辛うじて分かる。

dアニメストア

表示上: 192kbps
聴感上: 192kbps?

コメント: PC 版と相変わらず。映像・音声のトータルのビットレートはヘルプページ曰くスマホはPCに比べ低くなっているが、音声はそのままのようである。

Chromecast (第3世代)

Netflix

表示上: なし
聴感上: 96kbps?

コメント: スマホ版と相変わらず。なぜ固定回線前提の Chromecast でビットレートを絞るのだろうか。

Prime Video

表示上: なし
聴感上: 128kbps?

コメント: PC やスマホと相変わらず。

ABEMA

表示上: なし
聴感上: 160kbps?

コメント: PC やスマホと相変わらず。

dアニメストア

表示上: なし
聴感上: 128kbps?

コメント: ここに来て dアニメストア の音が落ちるのが意外だった。しかも ABEMA 未満。なぜ固定回線前提の Chromecast でビットレートを絞るのだろうか。Chromecast は PC でのブラウザ視聴に比べ音の排他出力が可能になるというメリットはあるが、そもそものビットレートが下がっている (と思われる) ので、結果的に音は悪く感じられた。

BDレコーダー (独自 OS)

Netflix

表示上: なし
聴感上: 64kbps?

コメント: 今どきニコニコ動画でも聞けないような酷い音をしていた。が、どの作品を観ても 2.0ch のソースにも関わらず 5.1ch として(アップミックスなどではなくC / LFE / Ls / Rsは空の状態で)送られていたし、やや音割れが発生していたので、そもそも音周りが何かおかしいと思う。Prime Video では問題なかったので、レコーダー本体ではなくレコーダーの Netflix アプリになにか問題を抱えていそうではある。

Prime Video

表示上: なし
聴感上: 128kbps?

コメント: PC やスマホ、Chromecast と相変わらず。

ABEMA

(非対応)

dアニメストア

(非対応)

まとめ

※2020年6月時点の情報です。

表示上のビットレート

(Netflix の UWP アプリで 192kbps 出た件は、確認した時期が他と異なるので、ここでは比較しない。)

Windows Android Chromecast レコーダー
Netflix 128kbps 96kbps
Prime Video 128kbps
ABEMA
dアニメストア 192kbps 192kbps

聴感上のビットレート (推測)

Windows Android Chromecast レコーダー
Netflix 128kbps 96kbps 96kbps 64kbps
Prime Video 128kbps 128kbps 128kbps 128kbps
ABEMA 160kbps 160kbps 160kbps
dアニメストア 192kbps 192kbps 128kbps

総評

アニメの場合コンテンツ数、価格、音質的に dアニメストア が最強…と言いたいところだが、Chromecast のみ音が劣るのがいただけない。Fire TV ではどうなるのかが気になる。ABEMA は dアニメストア (192kbps) と比べるとやや劣化しているのが分かってしまうが、比較せずにそれ単体で聞いて劣化が分かるほどでなく、十分許容できる範囲である。

だが、128kbps 以下になるとそろそろ比較しなくても音が劣化しているのが分かってくるので、Prime Video や Netflixにはもう少し頑張っていただきたい。特に、Netflix はプレミアムプランであっても環境によっては 64kbps や 96kbps 程度の音しか提供しないのは流石に舐めているとしか思えない。

Prime Video や Netflix は 4K や HDR に対応するのもいいが、もう少し音質にも目を向けていただきたいものである。

クソ長余談

日本のテレビ放送は、内容の質や画質はともかく、音のビットレートはそれなりに担保されている。ステレオだと副音声がある場合などを除き、基本的に 192kbps を下回ることはない。深夜アニメをたくさん放送している BS11 など、局によっては 256kbps 出すところもある。

Netflix では公式ブログで「スタジオ音質」などと言っているが、今回のステレオでの検証結果では最高でも 128kbps、環境によっては 64 〜 96kbps 程度と非常に乏しい。「やーい Netflix の音質、サンテレビ (兵庫のローカル独立局、256kbps) の半分以下ー!」という煽りが通用してしまう。果たしてこんなビットレートで「スタジオ音質」と呼べるのだろうか。

Netflix は、5.1ch / 7.1ch や Dolby Atmos の音源は Dolby Digital Plus、2.0ch では Dolby Digital Plus に加え AAC LC や xHE-AAC も使用しているようである。いずれも結局はロッシー圧縮である。それに対し、Netflix が目指しているのは「スタジオ音質」である。音楽分野では (実際の質はともかく)「ロスレス!」「ハイレゾ!」と叫ばれる中で、「スタジオ音質」を謳っているにも関わらずロッシー圧縮を使用するのは、時代に逆行しているように感じられる。

「スタジオ音質」を謳うぐらい音質をウリにしたいしたいのであれば、Dolby TrueHD や DTS-HD Master Audio などのロスレス圧縮で提供すべきではなかろうか。これらも 7.1ch に対応可能だし、Dolby TrueHD は Dolby Atmos のコンテナとして、DTS-HD Master Audio は DTS:X のコンテナとしても利用可能である。

特に最近は TIDAL、Deezer HiFi、Qobuz、Amazon Music HD、mora qualitas などロスレス音源(ハイレゾ音源含む)のストリーミングサービスも開始し、更に一部は Dolby Atmos Music や 360 Reality Audio (MPEG-H 3D Audio) などにもいち早く対応するなど、それまでなんとなくの雰囲気としてあった「定額使い放題系のストリーミングなんて低い品質で十分、品質を求めるならちゃんと買え」という風潮もどんどん変わってきている。

成人向け漫画雑誌を、買い切りの電子書籍と同等かそれ以上の画質で、それも一部は紙の発売日と同日(これは基本的に電子書籍の発売日より早い)あるいは紙の発売日よりも多少フライングする形で配信し、更に配信ならではの要素として、匿名で気軽に書き込めるコメント欄を設けている Komiflo だってそうだ。定額使い放題系のストリーミングサービスは、ライフスタイルなどの変化に伴い、「安かろう悪かろうを受け入れて使うサービス」から「便利な一つの手段」に変わってきているのである。

日本の新4K8K衛星放送では (実際の品質や運用、ビットレートはともかく) 4K / HDR / WCG など映像の進化だけでなく、音声に関しても 7.1ch や22.2ch に対応する他 (ただしロッシー圧縮の MPEG-4 AAC LC のみ)、ロスレス圧縮の MPEG-4 ALS に対応したりもしている (ただし5.1chまで)。

それに対し動画配信サービスはどうだろう。映像は (ビットレートはともかく) 4K / HDR / WCG には対応したものの、音声に関してはせいぜい Dolby Atmos に対応したぐらいであり、根本的な音質に関しては改善される様子がない。

流石に今すぐ全作品をロスレス音声で配信することはコンテンツ供給側の思惑もあってすぐには難しいだろうが、少なくともアニメに関しては ABEMA や dアニメストア では既に 160kbps ~ 192kbps で配信されているので、Netflix や Prime Video なら (言い方は悪いが) 金の力で 192kbps 程度の音声を配信するのは容易なはずである。

日本のテレビ放送に音質面で劣り続けている各動画配信サービスは、もっと音の品質にも目を向けてもらいたいものである。


井戸水

ガジェットやオーディオビジュアルが好きな人。モバイル機器における空間オーディオなどを調査しています。

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