Dolby Cinema と IMAX レーザー / GT テクノロジー

最終更新日

TL; DR

2大 PLF (プレミアム・ラージ・フォーマット)、Dolby Cinema (ドルビーシネマ) と IMAX レーザー / GT テクノロジーに関して、それぞれのレビューをしつつ、魅力を語りたいだけ語る。なお、劇場内での写真はすべて上映開始前または上映終了後に撮影したものである。

Dolby Cinema

日本国内の Dolby Cinema 一覧

劇場名 シアター/スクリーン 経営 時期 スクリーンサイズ アスペクト比 座席数
(車椅子)
AVP 天井
スピーカー
肘掛け
横 (m) 縦 (m)
TOHOシネマズ すすきの SCREEN 10 TOHO (東宝系) 2023/11 (新築) (非公開) (非公開) (不明) 261 (2) (不明) (不明) 共有 (一般)
独立 (プレミア、ワイド コンフォート)
MOVIXさいたま Dolby Cinema
元: シアター11
SMT (松竹系) 2019/04 (改装) 13.92 5.80 シネスコ 292 (2) 露出 独立
新宿バルト9 シアター6 T-JOY (東映系)
TOHO (東宝系)
2022/11 (改装) (非公開) (非公開) シネスコ 387 (4) 埋め込み 共有
丸の内ピカデリー Dolby Cinema
元: 丸の内ピカデリー3
SMT (松竹系) 2019/10 (改装) 15.00 7.13 中間 (2.10:1) 255 (2) 露出 独立
T・ジョイ横浜 シアター4 T-JOY (東映系) 2020/05 (新築) (非公開) (非公開) ビスタ 325 (2) 埋め込み 共有
ミッドランドスクエア シネマ スクリーン5 中日本興業
SMT (松竹系)
2019/12 (改装) 11.95 5.00 シネスコ 163 (2) 露出 共有
MOVIX京都 Dolby Cinema
元: シアター10
SMT (松竹系) 2020/03 (改装) 12.38 5.18 シネスコ 306 (4) 露出 独立
TOHOシネマズ ららぽーと門真 SCREEN 6 TOHO (東宝系) 2023/04 (新築) (非公開) (非公開) 中間 (詳細不明) 234 (2) 露出 共有 (一般)
独立 (プレミア)
T・ジョイ梅田
元: 梅田ブルク7
シアター1 T-JOY (東映系) 2019/06 (改装) (非公開) (非公開) ビスタ 376 (2) 埋め込み 共有
T・ジョイ博多 シアター9 T-JOY (東映系) 2018/11 (改装) (非公開) (非公開) ビスタ 346 (2) 埋め込み 共有

入口 / AVP

必須ではないが、入り口には上映する映画に合わせたショートムービーを流す通路、AVP (オーディオビジュアルパス、オーディオビジュアルパスウェイとも) が設置されている劇場もある。細かいデザインは劇場によってまちまちである。

丸の内ピカデリー

新宿バルト9

T・ジョイ横浜

MOVIX京都

T・ジョイ梅田 (元・梅田ブルク7)

ミッドランドスクエアシネマ

これはただの入り口であり、AVP ではない。

映画館マニアの間では、AVP で流れている映像のうち、特に作品に合わせたものを「専用AVP」、そうでないものを「汎用AVP」などと呼んだりする。専用 AVP は The M FactorRicky Ringer 氏など、複数のスタジオやクリエイターが制作しているが、汎用 AVP はほとんど Jordan Weill 氏が制作している。

いわゆる「配給制限」問題について

「丸の内ピカデリー」及び「T・ジョイ梅田 (元・梅田ブルク7)」では、しばしば Dolby Cinema 対応作品が上映されない、あるいは他館より遅れて上映されることがある。これは配給会社と映画館運営会社の間で起こっている問題で、俗に「配給制限」と呼ばれている。

これらは東宝系の作品 (TOHO animation 作品や、日本では東宝東和が配給担当しているユニバーサル・ピクチャーズ作品含む) で問題視される事案である。

「丸の内ピカデリー」は松竹系の映画館だが、近くには「TOHOシネマズ 日比谷」が存在している。また、「T・ジョイ梅田」は東映系の映画館だが、近くには「TOHOシネマズ 梅田」が存在している。恐らく東宝が他の映画館に客を取られてしまうことを懸念しているのではないかと思われる。

そういう意味では東京の「新宿バルト9」や大阪の「TOHOシネマズ ららぽーと門真」は、期待の Dolby Cinema となる。

なお、配給による上映館の調整自体は、東宝以外の配給会社も普通に実施していることではある。

Dolby Cinema のレビュー

やはり Dolby Cinema といえば “黒” がとにかくすごい。

プロジェクターのダイナミックレンジの高さや暗部の表現能力の高さもすごいが、劇場デザインによる黒の追求もすごい。スクリーンの光をあまり反射しない壁やシートなどの内装のおかげで、照明が消えるとほぼ真っ暗になる。この暗さや黒さに慣れると、普通の劇場に行った際、スクリーンの光の反射がどうしても気になってしまう(こともある)。Dolby Cinema は、とにかく最高の “黒” を追求した劇場になっている。Dolby Cinema の基調は、AVP からも分かるように黒に青(ドルビーブルー)の差し色で、これは劇場内も同様だ。

そんな最高の “黒” を追求した劇場で観る HDR (Dolby Vision) の映像とか凄くないわけがない。Dolby Laboratories が映像 (Dolby Vision) も音響 (Dolby Atmos) も劇場デザインも、全てパッケージングして Dolby Cinema という名称で提供するのもうなずける。

T・ジョイ梅田の Dolby Cinema のスクリーン比率は FLAT(ビスタサイズ)、MOVIX京都のスクリーンの比率は SCOPE(シネスコ)なので、梅田は SCOPE の作品で、京都は FLAT の作品で黒帯が出るが、黒が本当に黒いので、帯があることを意識しなければさほど気にならないのも良い点。

丸の内ピカデリーやMOVIX京都は Dolby Cinema があるフロア全体までもが黒っぽくなっている。さらに、丸の内ピカデリーは通常館と Dolby Cinema とが独立しているため、ロビーのデザインも黒×青と Dolby Cinema をイメージしたものとなっている。

丸の内ピカデリー

MOVIX京都

先程、劇場内がほぼ真っ黒になると言ったが、スクリーンが明るいとどうしても天井やシートへの反射は完全には消せない。その上、T・ジョイ系列の Dolby Cinema ではスピーカーが天井に埋め込まれているが、SMT 系の Dolby Cinema では天井スピーカー (Dolby SLS 3軸) が露出しているため、天井に加えてこのスピーカーへの反射も結構気になる。


MOVIX京都の Dolby Cinema には、最前列にオットマン付きのリクライニングシートが用意されている。同じ SMT 系の丸の内ピカデリーの Dolby Cinema も最前列はリクライニングシートだが、MOVIX さいたまはそうではない。


Dolby Cinema では、上映直前に Dolby Cinema の構成要素である Dolby Vision と Dolby Atmos を説明して実演するトレーラー、Universe が流れる。

↓英語版 (音はバーチャルサラウンド的なエフェクトがかかっている)

↓ 日本語版 (やけに赤が強めで、本物の黒のシーンは差がほぼない…)

最近は Universe トレーラーに付随して、別のトレーラー(正式名称不明)も流すようになっている。

Universe トレーラーは、初見のときはかなり楽しかった。家で Dolby Atmos / DTS:X 対応のホームシアターを組んではいるのだが、小さな空間での 5.1.2ch 構成ごときでは到底追いつくことができない、本物の Dolby Atmos をじっくり体験し、味わうことができた。

映画館には側面や背面にたくさんスピーカーがあるが、Dolby Atmos などでない限り、そのほとんどは同じ音を担当している場合が多い。例えば 5.1ch ならサラウンドスピーカーのうち Ls (Left surround) 同士、Rs (Right surround) 同士は同じ音を鳴らしている。7.1ch なら背面にあるものがサラウンドバックスピーカーの Bsl (Back surround left) / Bsr (Back surround right)に分かれ、5.1ch より音の定位は改善するが、それでも音の位置を正確に表現することはできない。

Dolby Atmos では、2.0ch や 5.1ch 等といったトラックごとに鳴らすスピーカーが予め決まっているチャンネルベースオーディオに加え、音自体に位置情報 (時間経過で移動可能) を持たせ、部屋のスピーカー構成に合わせて音の位置をレンダリングするオブジェクトベースオーディオ(オブジェクトオーディオと略されることが多い)を組み合わせている。

オブジェクトオーディオにより、今まで複数のスピーカーで同じ音を鳴らしていた 5.1ch や 7.1ch に比べて、スピーカー一つ一つを独立して鳴らすことができるようになったため、音の定位が上がる。ホームシアターにおける Dolby Atmos は「5.1ch や 7.1ch に天井スピーカーを足しました」という感じなのに対し、映画館の Dolby Atmos が大きく異なる点はここにある。

Dolby Atmos の特徴としてよくオブジェクトオーディオが語られる印象があるが、Dolby Atmos でも音の基本は「ベッド」と呼ばれる 9.1ch (前後左右 7ch + 低音1ch (0.1ch) + 天井 2ch (0.0.2ch) の 7.1.2ch 構成) のチャンネルベースオーディオであり、天井からの音も (天井全体からの音にはなるが) ベッドチャンネルだけで賄える。オブジェクトトラックは、特に音の動きを表現したい場合や特定の位置に音をしっかり定位させたい場合に使用される。

(Dolby Cinema に限らず) Dolby Atmos Cinemaでは、Lc (Left center) / Rc (Right center)、Lw (Left wide) / Rw (Right~)、天井の Tsl (Top surround left) / Tsr (Top surround right)など、今までスピーカーがなかった位置にも配置することが可能(部屋の大きさによっては設置しないものもある)。特に天井スピーカーはDolby Atmosの醍醐味である。(スピーカーの呼び名は諸説あり)

なお家庭用の Dolby Atmos (Dolby Atmos Home) では映画館ほどスピーカーを置けないので、Lc / Rc を想定した AV アンプや Ls / Rs を複数台繋げられる AV アンプは (多分) ないし、Lw / Rw はよほど部屋が広くないとまず置くことは無い。

Dolby Atmos Cinema ではオブジェクトオーディオで天井スピーカーやワイドスピーカーなど新規追加のスピーカーはもちろん、既存のサラウンドスピーカーをもフル活用するが、Dolby Atmos Home では天井スピーカーから音が鳴るぐらいしか恩恵がない。

前後左右に加え、上方向からも音が鳴る没入型 (immersive) の立体音響であるイマーシブサウンドという点においては Dolby Atmos Cinema も Home も共通しているが、オブジェクトオーディオによって音が緻密に移動する感覚というのはスピーカー数が多い映画館に分がある。


また、Dolby Vision の説明での「今見ているこの色は、実は黒ではありません。これが、本物の黒。」のナレーションとともに、画面中央に映る白丸の輝度が下がることなく(むしろ上がってる?)、周辺の黒浮きした部分だけがきれいにストーンと落ちてほぼ真っ黒になるデモはかなりびっくりした。

初見のときは本編が始まる前のそのトレーラーだけでももう十分楽しくて、ワクワクして、無意識に変な笑みを浮かべていた。「おお…」と声が出そうになったのを抑えるのが大変だった。なんて言ったってオーディオビジュアル業界にいる人達をも唸らせるレベルなのだから。

最初に画面に映し出されたのは、黒い背景に白い線で描かれた円が浮かんだ映像。正確に言えば、グレーのスクリーンの中央にぽわっと白い円が映っているイメージでしょうか。大沢氏いわく、実はこれが「一般的な、良い映画館の映像と呼ばれるもの」。ここで映像がドルビーシネマに切り替わると・・・不意に目の前のスクリーンが消えて漆黒の空間が広がり、鋭いエッジの白い円が浮かび上がったではありませんか!劇場のあちこちから「おぉ」というどよめきが漏れ、筆者も思わず隣の編集M氏と顔を見合わせたほどです(笑)。大沢氏の言葉を借りて言うなら「私たちは本当の『黒』を見ていなかった」!

ドルビーシネマで見えた『アベンジャーズ』本当の姿! “驚愕の漆黒表現”を体験してきた – PHILE WEB
https://www.phileweb.com/review/column/201905/22/734.html

ところで、Dolby Atmos の説明の “this is the world’s first object-based cinematic audio.” が日本語吹替版では cinematic が取れて「世界初、オブジェクトベースの、オーディオテクノロジー。」になってるのはよくない気がする。オブジェクトオーディオ自体は昔から存在するからだ。


Dolby Cinema にはもう一つ、Elemet というトレーラーもあるのだが、日本の Dolby Cinema で Element が流れたという情報はない。

AMC 独自の PLF である AMC Prime に Dolby Cinema を融合させた、Dolby Cinema at AMC には Element トレーラーのカスタマイズ版のようなものが存在する。

他にも Dolby Cinema の予告トレーラーとして、Movies Matter もある。Dolby Cinema のオープン前になるとその系列の映画館 (近隣のみ?) で流れ出し、Dolby Cinema ではない普通のスクリーンなどでも観られる。

T・ジョイ博多の Movies Matter トレーラーにはタイトルの最後にファイル名と思しき “DolbyMoviematters JPN 60” と言う文言があり、Movies Matter とは “s” の位置が違っている。が、本国の Movies Matter トレーラーには映像内にも “Movies Matter” と言う文言が現れているため、おそらくT・ジョイ博多か Dolby Japan のタイプミスだろうと思われる。

本国(と言っても純粋な Dolby Cinemaではなく Dolby Cinema at AMC だが)の Movies Matter は90秒ほどあるのに対し、日本版は最長でも60秒(T・ジョイ博多MOVIXさいたま丸の内ピカデリー/MOVIXさいたま/MOVIX京都)だ。劇場によって30秒(T・ジョイ梅田T・ジョイ横浜)や15秒(MOVIX京都ミッドランドスクエアシネマ)の場合もある。昇降式のオットマン的なものでくつろぐシーンがカットされるのは仕方ないとは思うが、実際の映画の音を使用したシーンなどもカットされているのは気になる。著作権絡みだろうか。


「アナと雪の女王 2」は Dolby Cinema で観ると「映画」が「観るアトラクション」に変貌する。映像の繊細さ、色彩の鮮やかさ、コントラスト比、明るさにおいて、IMAX レーザー / GT テクノロジーを圧倒していた。

黒背景でキャラが歌うシーンや、暗い海を (肌も髪も服装も白っぽい) エルサが渡ろうとしているところに暗い空から雷が落ちてくるシーンなど、コントラスト比の高さがよく分かるシーンが多かった。

Dolby Cinema で本作を観た後に IMAX レーザー / GT テクノロジーでも観たのだが、(なんかぱっとしないし、ただ画面が大きいだけじゃん…)という印象になってしまい、観る順番を間違えたような気がした。もちろん IMAX レーザー / GT テクノロジーが凄くないわけではないのだが、Dolby Cinema はそれを凌駕している。この作品は過去最高の Dolby Cinema 向き映画だと思えた。

最初に観た字幕版では暗いシーンでの字幕が煌々と輝いているのが気になって、コントラスト比の高さが裏目に出ているような感じがあった。後に吹替版を同じく Dolby Cinema で観たのだが、字幕がない分、映像美を堪能することに集中できた。日本語 Dolby Cinema コンテンツは貴重 (追記: 最近になって Dolby Vision 採用のアニメが増えてきたのでそこまで貴重でも無くなった) なので、吹替に抵抗がない限り吹替で観ることをおすすめする。

「Fukushima 50」はそもそも邦画なので、字幕を目で追ったり字幕の眩しさを気にしたりすることなく、映像に集中できる。停電中の屋内の描写が多いので Dolby Vision や Dolby Cinema の黒さや暗さが際立つ。

「スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け」は舞台が宇宙空間なので、黒が映える。本作は宇宙空間以外にも暗いシーンがあるが、暗所が黒つぶれせずにしっかりと描写されていた。

Dolby Cinema の Dolby Vision と黒の表現能力が、「ターミネーター:ニュー・フェイト」では夜間 (= 低輝度) のアクションシーンやそこで起こる爆発(=高輝度)などを引き立てていた。

「ジョーカー」や「マトリックス」は全体的に暗めのシーンが多いので、黒の表現力の高さが伺える。「マトリックス」では暗い場所で急に強い光が差すシーンもそれなりにあるので、Dolby Vision のパワーを感じることができる。

ゲキ×シネ「偽義経冥界歌」の Dolby Cinema 版は、Dolby Cinema の暗部階調の限界に挑戦したような、かなり黒が深い画作りに感じた。この暗さの表現と、更に暗転で本当に劇場が暗転するのも Dolby Cinema ならでは。 その反面で、今まで Dolby Cinema で色々観た中では一番明るさを感じることができたように感じた。

なお、Dolby Cinema はコントラスト比の高さが魅力なので、基本的に背景が黒い映画のエンドクレジットも地味ながら見どころとなる。


一方音響面では、割れやひずみのない大音量でダイナミックな音が Dolby Atmos によって動き回っている。「スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け」では、宇宙船や砲弾等が立体的に飛び回っているため、特に Dolby Atmos の威力を感じられた。「ターミネーター:ニュー・フェイト」は「スター・ウォーズ / スカイウォーカーの夜明け」ほどではないが、同様にアクションシーンを盛り上げていた。

T・ジョイ梅田 (Dolby Cinema) と109シネマズ大阪エキスポシティ (IMAX レーザー / GT テクノロジー) に限った話かもしれないが、「アナと雪の女王 2」の低域は Dolby Cinema 向きだった。またしても本作を Dolby Cinema で観るべき理由が増えた。

「Fukushima 50」は正直邦画のドラマ作品だと侮っていたのだが、邦画では珍しく Dolby Cinema で上映するということで気になって観たところ、ハリウッドのアクション映画並み、またはそれ以上の圧倒的で大迫力な音響でびっくりした。それに色んなところから音が聞こえてくるし、ヘリも飛び回っているので、Dolby Atmos をふんだんに利用しているのがよく伝わってくる。なお、この作品は Dolby Cinema 以外では Dolby Atmos での上映がないので、もったいなく感じる。それはともかくとして、個人的に「Fukushima 50」はぜひ映画館で観てほしいと思った。この圧倒的な音響は、とてもホームシアターで再現できるものではない。

「ジョーカー」で要所要所流れるチェロによる劇伴では、低域が座席を震わさんばかりに深く響いていた。また、ショーの観客の拍手や、抗議デモの声が、Dolby Atmos によって劇場内のあちこちに定位していた。とはいえ正直本作では音が動いたり天井から音が出たりする要素がほとんどないので、(Dolby Atmos はオーバースペックでは? 7.1chぐらいで十分では?)と思っていた。ところが改めて Dolby Cinema で2度目の鑑賞をすると、フロントワイドスピーカーに相当する位置のスピーカーを、観客の声や拍手にあてていることが分かった。これにより、若干の没入感が加わっていた。

「マトリックス」は冒頭で雷雨が続いているし、上空をヘリが飛ぶシーンもあって、Dolby Atmos の天井スピーカーとの相性の良さを感じられた。

なお、Dolby Cinema の音響はどちらかというと映画向きで、音楽的には IMAX ほど美音でないので、比較するとやや物足りなさを感じてしまうのが少し残念だ。


期待半分不安半分でMOVIX京都の Dolby Cinema 最前列で「スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」を観てみたのだが、リクライニングできる分、思ったよりも無理に見上げなくてもよく、割と見やすかった。

ほぼ視界いっぱいにスクリーンが広がり、程よい没入感が得られる。最前列で観てもしっかり鮮明というわけではないが、輪郭が甘くぼやけたりはしない。ただ映像のインパクトよりも字幕のインパクトの方が強い印象があった。

「スター・ウォーズ」シリーズではハイパースペースジャンプで突然宇宙空間に宇宙船が現れる印象的なエフェクトが用いられるが、それを最前列で観るとより迫力が増す。また、エンドクレジットの背景に星(不動)があるのだが、じっと観ているとクレジットが動いてるのか星が動いてるのかよくわからなくなってきて、エレベーターにでも乗ったのかのような感覚になる。

なお、シリーズ特有の冒頭に文字が流れるシーンでは日本語字幕が右端に出るので、このときは首が少し疲れた。

Dolby Atmos Cinema では、RLP (Reference Listening Position、設置や調整の際の基準の位置) を劇場の奥行きの2/3の位置としている。最前列だと、もはや Universe トレーラーでは雨がどこで降っているのかわからず、ほぼ雷鳴しか聞こえてこない。音響的にはあまりいいポジションとは言えないが、それでも本編で特に不自由することはなかった。


作品の持つパワーが Dolby Vision と Dolby Atmos によって余すことなく収められ、それらを最高の状態で体験するために設計された空間で解き放つ。謳い文句通りの、まさに「映画に命を宿す場所」。それが Dolby Cinema なのだと実感した。

IMAX レーザー / GT テクノロジー

109シネマズ大阪エキスポシティ シアター11(IMAX)の入り口

IMAX と言えばまずはなんと言っても巨大スクリーンが特徴。しかし109シネマズ大阪エキスポシティにある IMAX は、ただのデジタル IMAX ではない。4K レーザープロジェクターと独自の 12ch イマーシブサウンド (IMAX12) を採用する IMAX レーザーの一種であり、その中でも 4K レーザープロジェクターを2機使用し、IMAX カメラの画角 (1.43:1) と同じアスペクト比のスクリーンを持つ「IMAX レーザー / GT テクノロジー」とよばれるものだ。IMAX レーザー / GT テクノロジーは、かつて「IMAX 次世代レーザー」とも呼ばれていた。

そもそもなぜわざわざ「デジタル IMAX」という呼び方をするかというと、本来 IMAX はフィルムだからだ。

「IMAX レーザー / GT テクノロジー」の「GT」は、IMAX フィルムの映写機「IMAX GT」に由来する。なので、「IMAX レーザー / GT テクノロジー」を「IMAX GT」と略すのは、「ポケットモンスター ブリリアントダイヤモンド・シャイニングパール」を「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」と略すぐらい適切ではない。「IMAX レーザー GT」等であれば妥当だろうと思われる。

ちなみに IMAX レーザー / GT テクノロジーでない普通の (?) IMAX レーザー (IMAX with Laser) は、「IMAX Commercial Laser (CoLa)」とも呼ばれる。更に、廉価版として「IMAX Laser XT」というものも登場している (日本未導入)。IMAX レーザーでない普通の (?) デジタル IMAXは「IMAX デジタルシアター」と呼ぶ。IMAX デジタルシアターの映写機はキセノンランプを使用しているため、「IMAX レーザー」と対比して (?) 「IMAX キセノン」と呼ばれることもある。IMAX12 はIMAX デジタルシアターの一部でも採用されている。

後方から見た109シネマズ大阪エキスポシティの IMAX レーザー / GT テクノロジー。
スクリーンの横幅は26mあり、高さは6階建てビル相当の18m。

IMAX レーザーを導入する劇場は増えてきてはいるが、IMAX レーザー / GT テクノロジーを導入している劇場は、今の所日本では大阪の109シネマズ大阪エキスポシティと東京のグランドシネマサンシャインしかない。

IMAX の 12.1ch スピーカーは以下のようになっている。

天井スピーカーはあるが、音源にオブジェクトオーディオは使われず、チャンネルベースの IMAX5 (5ch) や IMAX12 (12ch) で提供される。IMAXは音源自体にはディスクリートなLFE (0.1chとしてカウントされる低音専用チャンネル) は持っておらず、できる限り各スピーカーで低音を鳴らすようにし、それでも足りない部分はクロスオーバーしてサブウーファーで鳴らしている。


これだけの広さのスクリーンがあると、かなり没入感が高まる。特に「ダークナイト」「ダンケルク」「インターステラー」といった、IMAX カメラで撮影された 1.43:1 の画角のシーンがある作品では特にそう感じる。

「インターステラー」の宇宙船のデカさと、そのデカい宇宙船すらちっぽけに見える宇宙空間の広大さを味わえるのは IMAX レーザー / GT テクノロジーだけと言っても過言ではない。

他の 1.43:1 画角の作品は確かに映像で視界を満たされる感があって良いのだが、人や物が実際よりも大きくても…という感じがあった。それに対し、「インターステラー」では宇宙空間やコーン畑など、もともと広くあるべきものが広く見えるのがすごくよかった。

「ダンケルク」では戦闘機が海上を飛ぶシーンが何度かあるのだが、視界いっぱいに広がる空と海の映像は圧巻だった。視界がほぼ映像で満たされ、映画の中に入っていくような感覚すらあった。

上記2作品のうち 1.43:1 ではないシーン、あるいはそれ以外の作品においては黒帯が出ていたが、そもそも画面が大きいので画面外があまり視界に入らない。つまり黒帯が黒浮きしているのが気にならない。

これだけ大画面ながらもさすが 4K ツインレーザープロジェクター、明るく繊細で色鮮やかな映像を堪能することができる。


IMAX といえば画面サイズに目が行きがちだが、音響もかなりすごい。おそらく Dolby Cinema よりも大音量なのに、それでもなお音が歪んだり割れたりする様子がない。

その低域の凄さは「インターステラー」で特に真価を発揮していた。空気は音の振動なんだなと実感するぐらいの大轟音が劇場中に響き渡り、服を揺らし胸を打つ(物理)。しかも力強い低域が大音量で出ているにも関わらず、低音はバスレフっぽいボーボーした感じではなく、ドスドスと適度に締まった音がしっかり伝わってくる。

他作品でも締まった低域はかなり迫力がある。「テネット」では劇伴や主題歌まで低音がかなり激しい (恐らく低音かなり盛ってる) が、Dolby Cinema では感じられないほどの音圧を IMAX では体感することができる。IMAX で「テネット」を観たあとは、主題歌の “The Plan” の低音がしばらく耳から離れなかった。IMAX の低音はもはや麻薬だ。

それでいてセリフはかなりクリアだし、音楽を鳴らしてもいい音がする。特に「ジョーカー」のチェロ曲をかなり綺麗に鳴らしていたのが印象的だった。オーディオは難しいもので、あるものに特化すると何かが犠牲になりがちだが、IMAX の音響はあらゆる音源を理想的な音で鳴らし切るオールラウンダーだ。


そんな IMAX はとにかく品質に自身を持っている。IMAXの入り口入ってすぐのところにこういった看板が出ているぐらいだ。

また、同様の内容のものが本編終了後にも表示される。流れは確か

(予告編)

IMAX Pre Show 2015


(予告編)

Infinite Worlds


IMAX Countdown


(本編)

「大切なのは品質です」表示

という順のはずだ。こう見ると IMAX は一回の上映で流すトレーラーが多い。なお映画泥棒はない。

最近は Infinite Worlds を見かけなくなった。代わりに(?)「スターウォーズ/スカイウォーカーの夜明け」の頃から「テネット」の約6分間のプロローグ映像が流れていた。 → 再び流れるようになった。

Infinite Worlds は Trollbound Entertainment が IMAX に委託されて制作したもので、監督は「パイレーツ・オブ・カリビアン / 最後の海賊」などの監督を務めた Espen Sandberg 氏。

IMAX – Infinite Worlds
Agency: TBWA/Chiat/Day LA
Director: Espen Sandberg
Customer: IMAX

PORTFOLIO LIST | trollbound

Infinite Worlds はメイキング映像が公式で公開されている。

日本語吹き替え版も用意されている。各国のバージョンは、以下のサイトで視聴することができる。

IMAX – Infinite Worlds – InterEcho

「ほら、ここから。ここから。そして、ここから。」「針の落ちる小さな音も…(全然小さくない)」で有名な (?) Pre Show 2015 は Premier Graphics 制作で、Timothy Evans 氏が監督しデザインしたものだ。作者公式でメイキング映像が公開されている。

Pre Show 2015にはいくつか (少なくとも2つ) バージョンがあり、109シネマズ大阪エキスポシティでは先程上映の流れのところで提示したものがかけられているが、「ほら、ここから。ここから。そして、ここから。」のシーンが以下の仕様のものも存在する。もしかしたら IMAX デジタルシアターと、IMAX レーザー (GT テクノロジー含む) の違いかもしれない。

ちなみに Pre Show 2015 の日本語吹替版のナレーションを務めているのは声優の井上和彦氏。

上記の動画で Pre Show 2015 の後に流れているのは Cliffhanger トレーラー。

プロジェクターに “IMAX DIGITAL” とあることから、これはおそらく IMAX レーザー (GT テクノロジー含む) 館では流れないと思われる。

IMAX Countdown もいくつかバージョンがあり、先程リンクを貼ったのは Sonic Anthem だが、他にも色々ある。(なんなら先程の Sonic Anthem も IMAX 1000館達成記念の特別バージョンで、通常バージョンもある)

例えば2004〜2012年に使用された初期バージョンや…

2012年版…

Cameras…

更にはさらには作品とコラボしたものも…

GODZILLA ゴジラ
ブレードランナー2049
ワイルド・スピード SKY MISSION

話がかなりそれたが、まとめると IMAX はとにかく大画面、大音量、美音によるゴージャスな映画体験ができる。エキスポシティは交通の便が不便なところにあるのだが、それを補って余りある体験ができる。

まとめ?

繊細な映像、豊かな色彩、そして圧倒的な明るさや劇場内を含めた黒へのこだわりによる高いコントラスト比で魅せる HDR など、リッチな映像体験ができる Dolby Cinema か。
とにかく圧倒的な大画面で大迫力な IMAX レーザー / GT テクノロジーか。

動き回るダイナミックなサウンドの Dolby Cinema か。
大音量なのに美音の IMAXレーザー / GTテクノロジー か。

ドゥーーンッ!と深く響く低音の Dolby Cinema か。
ドスドスと適度に締まった低音のIMAX レーザー / GT テクノロジーか。

甲乙つけがたいので、気に入った作品は両方で観ることをおすすめする。投げやりに感じるかもしれないが、どちらも満足感は高いはずだ。強いて言えばIMAX レーザー / GT テクノロジーの方が意識しなくても分かりやすい凄さがある。とは言っても「アナと雪の女王 2」のような完全に Dolby Cinema 案件な作品もあるので、やはり両方で観たほうが良いかもしれない。そして一緒に映画館沼にハマりましょう (??)


井戸水

ガジェットやオーディオビジュアルが好きな人。モバイル機器における空間オーディオなどを調査しています。

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