Amazon Music の空間オーディオには極力オーディオエフェクトをかけないほうがいいという話

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まえがき

スマホやタブレットにおける Amazon Music の空間オーディオ (Dolby Atmos / 360 Reality Audio) や、U-NEXT の Dolby Atmos / Dolby Audio は (2022/3/12追記: アップデートにて、この問題が起こらないようになっていた)、アプリの仕様により、一部のオーディオエフェクトをかけると音が変になってしまう危険性がある。さらに最近流行りのバイノーラル音声等に関しても同じことが言える。

ただ、その危険性を解説するには様々な専門用語が出てきてしまい、分かりやすく伝えることが難しい。そこで、この記事では技術的な詳細はあえて省き、専門用語を別の例えで置き換えることで、できる限りわかり易く説明したいと思う。

無理やり例えて説明しているため、詳しい方からすると説明が苦しいところも存在するかもしれない。しかし、この記事はオーディオ技術に精通している方を対象に、事態を正確に理解してもらうための記事ではなく、多くの音楽好きの方に注意喚起を行うことを目的としているため、そのあたりは大目に見ていただきたい。

Amazon Music の空間オーディオにかけないほうがいいオーディオエフェクト (一例)

通常のイコライザー (ただし Android の Dolby 系のイコライザーは除く) や、音をハイレゾ化 (アップサンプリング) する機能 (Xperia の DSEE 系や、Galaxy の UHQアップスケーラーなど) などはかけても問題はない。

問題があるのは、以下に示すような疑似サラウンド系や、コンサートホールなどの響きを再現する系のエフェクトである。これらのエフェクトは、イヤホンやヘッドホン (有線 / 無線問わず) で聴く場合も、内蔵スピーカーで聴く場合も、外部スピーカーで聴く場合も、いずれの場合においてもオフにしたほうが良い。

ぱっと思いつくものだけを列挙したが、これに限らず、類似の機能はすべてオフにすることを推奨する。

iPhone / iPad

  • ステレオを空間化 (Spatialize Stereo)

Dolby 系 (Android)

  • ドルビーアトモス (Dolby Atmos)
  • ドルビーオーディオ (Dolby Audio)
  • ドルビープロセッシング (Dolby Processing)
  • ドルビーデジタルプラス (Dolby Digital Plus)
  • ドルビーモバイル (Dolby Mobile)

※ 機種によっては、設定画面に「ドルビーサウンド」と記載されているものもある。とにかく、「ドルビーなんちゃら」の設定は、Amazon Music の空間オーディオには適用しないほうがいい。

※ Huawei や OPPO 製のものなど、一部の Android 端末ではスピーカー使用時に Dolby Atmos をオフにできないものもあるが、その場合は諦めるしかない。

DTS 系 (Android)

  • DTS:X Premium
  • DTS:X Ultra
  • DTS:X 3D Surround
  • DTS Headphone:X

LG

  • LG 3Dサウンド

Samsung Galaxy

  • コンサートホール

Sony Xperia

  • 360 Spatial Sound
  • サラウンド(VPT)
  • S-Force Front Surround

Amazon Music の空間オーディオに上記のオーディオエフェクトをかけないほうがいい理由

ここからは、Dolby Atmos や 360 Reality Audio をコーヒーに、通常のステレオ音声 (専門用語で言うと Lo/Ro: Left only / Right only) を水に例えて説明する。つまり、音の聴こえ方 = 飲み物の味となる。

Amazon Music のアプリがやっていること

スマホやタブレット版の Amazon Music では、Amazon Music アプリがコーヒーの材料 (音源) を調達し、アプリ内部でコーヒーを作るところ (デコード等の処理) まで行う。この方式はソフトウェアデコードと言う。一方 Apple Music は、アプリ側ではコーヒーの材料の調達のみを行い、コーヒーを作るのはスマホやタブレット本体に任せる。この方式はハードウェアデコードと言う。

それぞれの方式のメリットをまとめると以下のようになる。この2方式は対になるものなので、一方のメリットは、反転するともう片方のデメリットとなる。

Amazon Music: ソフトウェアデコード

  • スマホがコーヒーの淹れ方を知らなくても、コーヒーを飲むことができる

Apple Music: ハードウェアデコード

  • コーヒーを作る設備をアプリに組み込まなくていい
  • スマホやタブレットへの負荷が低い
  • 消費電力が少ない
  • コーヒーの淹れ方や味付けを工夫する余地をスマホやタブレットに与えられる場合もある (例: 内蔵スピーカーの特性に合った処理を行うことができる、イヤホンやヘッドホンでヘッドトラッキングを行うことができる、360 Reality Audio の「個人最適化」ができる、など)

先程 Android 版 U-NEXT の Dolby Atmos や Dolby Audioも注意が必要だと述べたが、これもソフトウェアデコードを行っているためである。 (→ 2022/3/12追記: アップデートにて、デコーダーがある機種ではハードウェアデコード、ない機種ではソフトウェアデコードを行うよう改善されていた。)

Amazon Music の空間オーディオにかけないほうがいいオーディオエフェクトとは

では先程列挙したエフェクトは何なのかと言うと、水 (通常のステレオ音声) が来ても、インスタントコーヒー (アップミックスや残響音のエミュレーションなどを行うもの) を用意しておけば、ちゃんと淹れたコーヒー (Dolby Atmos や 360 Reality Audio でミキシングされた音声) には敵わないものの、一応コーヒーは飲める、というものである。

つまり、Amazon Music の空間オーディオに対し、スマホ側の Dolby Atmos 等のエフェクトを適用するというのは、すでに出来上がったコーヒーにインスタントコーヒーの粉を入れる、というものである。これでは味 (音の聴こえ方) が変になるのは当然と言えるだろう。

なぜこのようなことが起こるのか

Apple Music のような方式の場合、コーヒーは自分で淹れているので、そこにさらにインスタントコーヒーの粉を入れるようなことはしない。一方、Amazon Music の場合、提供されたコーヒーは自分で淹れたものではないので、出てきた飲み物が何かよくわからずにインスタントコーヒーの粉を入れてしまう、といった状況である。

「いや、コーヒーかどうかなんて見た目や味で分かるし、そこにインスタントコーヒーの粉をブチ込むバカなんていねーだろ」

たしかにそれはそうである。少なくともホームシアターではそんなことは起こり得ない (5.1ch → 5.1.4ch アップミックスのように、コーヒーだと分かった上で、そこに砂糖やミルクを入れたり、コーヒーフロートにしたりすることはあるが)。

しかし、これにはスマホやタブレットならではの特殊な事情が絡んでくる。以降、飲み物の色を、音源のトラック数 (チャンネル数やオブジェクト数) に例えて説明する。

スマホやタブレットでは、多くの場合最終的には透明 (ステレオ) な液体 (音源) にする必要がある (ステレオスピーカーやステレオイヤホン / ヘッドホンで再生する事が多いため)。水は通常透明なのだが、コーヒーは通常透明ではない。

そのため、スマホやタブレットにおいては、作ったコーヒーの味 (Dolby Atmos や 360 Reality Audio の聴こえ方) を保ったまま透明化する (ステレオに落とし込む) 必要がある。この透明化の処理は、「バーチャライズ」や「バイノーラルレンダリング」などと呼ばれる。

余談

Amazon Music の空間オーディオには関係がないが、コーヒーを透明にする方法としては、味を保ったまま透明化する「バーチャライズ」「バイノーラルレンダリング」とは別で、淹れたコーヒーのコーヒー成分をどうにか濾し取って、見た目も味もただの水にしてしまう「ダウンミックス」というものもある。

なお、逆に Apple Music で空間オーディオを聴く場合、iPhone や iPad で本体側の「空間オーディオ」をオフにしたり、Android 端末で本体側の「Dolby Atmos」をオフにしたりすると、このダウンミックスが行われてしまうため、Apple Music の空間オーディオではこれらの機能はオン必須。

これは Amazon Music でも Apple Music でも行わなければならない処理なのだが、Amazon Music の場合はアプリ内でブラックボックス的にその処理を行っているため、スマホやタブレットからしたら透明なのでただの水 (ステレオ音声) にしか見えない。味はコーヒーかもしれないが、機械には味 (聴こえ方) までは分からない。

だからこそ、出来上がったコーヒー (を透明化したもの) にインスタントコーヒーの粉を入れるような真似ができてしまうのである。

iPhone や iPad で Amazon Music の空間オーディオを再生すると、フォーマット情報が「ドルビーアトモス」などではなく「ステレオ」という表記で、右下のトグルが「空間オーディオ」でなく「ステレオを空間化」となっているのも、そのせいである (実はそれ以外にももう一つ理由があるのだが、ここでは省く)。

Amazon Music の空間オーディオは、iPhone や iPad からすると空間オーディオではない (お前は何を言っているんだ) ため、AirPods シリーズのダイナミックヘッドトラッキングを使用するためには、「ステレオを空間化」を使用する必要がある。しかし、これでは音が変になってしまうのである。

なお、バイノーラル音声に関してもこれと同様で、あれはステレオヘッドホン / イヤホン向けに調整された、透明の味付きドリンクのようなものである。これに対しても、やはり上記の理由で水と勘違いしてインスタントコーヒーの粉を入れることができてしまうのだが、そんなことをすると味がおかしくなってしまうのは明白だ。

おわりに: ソフトウェアデコードは悪なのか?

こうして見ると、「Amazon Music もハードウェアデコードにしておけばよかったのに」と思えてくる。しかし、ソフトウェアデコードでは、スマホやタブレット本体の対応状況を気にすることなく (結果的には上記の理由で気にしなければいけなくなってしまったが)、幅広い人に空間オーディオを楽しんでもらうことができる。

そもそも、360 Reality Audio のコーデックとして採用されている MPEG-H 3D Audio のハードウェアデコーダーを搭載していることが確認できている機種は、今の所以下に示す Xperia の一部機種ぐらいだ。

  • Sony Xperia 1 II
  • Sony Xperia 5 II
  • Sony Xperia 1 III
  • Sony Xperia 5 III

実は、Android 12 では OS 自体が MPEG-H 3D Audio をサポートしている。

360 Reality Audioの普及に向けて、Google社が提供するプラットフォームAndroid 12において、360 Reality Audioを含む国際標準MPEG-H 3D Audioのサポートが開始されました。

ソニー株式会社 | ニュースリリース | 立体的な音場に没入できる音楽体験「360 Reality Audio」の普及を加速

ただし、360 Reality Audio に対応するには、MPEG-H 3D Audio のデコーダーを積んだ上で、更にソニーとのライセンス契約も必要となる。

これによりAndroid 12を搭載する機器のメーカーは、従来より容易に360 Reality Audioの実装が可能となり、対応機器※2の拡大が見込まれます。

※2:Andoroid12を搭載する機器の製造メーカーは、別途ソニーが提供する360 Reality Audioライセンスを受ける必要があります。

ソニー株式会社 | ニュースリリース | 立体的な音場に没入できる音楽体験「360 Reality Audio」の普及を加速

MPEG-H 3D Audio 自体はソニーが開発したものではなく 360 Reality Audio 専用というわけでもないが、現状 MPEG-H 3D Audio を使用したメジャーなフォーマットは 360 Reality Audio ぐらいしかない。

なので、MPEG-H 3D Audio デコーダーを積んでも、360 Reality Audio のライセンス契約をしなければ十分に活かすことは現状難しい。

そのためか、MPEG-H 3D Audio に対応した Android 端末は、今の所ソニーの Xperia ぐらいしかない。

(参考) Android 12 を搭載しているが、MPEG-H 3D Audio に対応していないスマホ

※ Pixel 6 のみ実機で確認、他は NTTドコモ 端末・ブラウザスペック で確認したため、以下は docomo から発売された機種が中心となっている。

FCNT

  • arrows We
  • らくらくスマートフォン F-52B

Google

  • Pixel 3 / 3 XL
  • Pixel 3a
  • Pixel 6

Samsung

  • Galaxy S10 / S10+
  • Galaxy Note10+
  • Galaxy S20 5G / S20+ 5G
  • Galaxy Note20 Ultra 5G
  • Galaxy S21 5G / S21+ 5G
  • Galaxy S22 / S22 Ultra
  • Galaxy Z Fold3 5G
  • Galaxy Z Flip3 5G
  • Galaxy A52 5G

SHARP

  • AQUOS R5G
  • AQUOS R6
  • AQUOS sense4
  • AQUOS sense5G
  • AQUOS sense6

また、Amazon Music では、スマホやタブレットに Dolby Atmos を提供する際は、Apple Music で使用されるフォーマット (E-AC-3 JOC) に比べ、低ビットレートで配信でき、更にデコード時の負荷も低いという特徴を持つ新しいフォーマット (AC-4 IMS) が用いられている。このフォーマットは最近の Android 端末では対応機種が増えてきている (詳細は上記の記事にて) ものの、iPhone や iPad はまだ対応していない。

E-AC-3 JOC と AC-4 IMS についての詳細:

こうしたまだ十分に普及していない新しいフォーマットを採用することができるのは、ソフトウェアデコードの強みである。

さらに、ハードウェアデコードの強みとして「ソフトウェアデコードよりも負荷が少なく、消費電力も低い」と書いたが、動画再生ならまだしも、音楽再生でそこまで顕著に差が出るかと言われれば、正直微妙なところではある (ゲーム中など負荷が高い状態だと音が一瞬飛ぶこともなくはないが)。

では、Amazon Music はどうすればよかったのか。答えは単純で、ハードウェアデコードとソフトウェアデコードのハイブリッドにすればいい。つまり、本体が対応しているものはデコードを本体に任せ、非対応なものだけをアプリ側でデコードする。ただこれだけで済んだ話である。

確かに、それだと例えば Dolby Atmos には非対応なものの DTS:X Ultra には対応している機種等で、Amazon Music の Dolby Atmos の音源を聴いた場合には、依然として上記のような問題は起こりうる。

しかし、少なくとも、「Amazon Music の Dolby Atmos を Dolby Atmos 対応の Android 端末で聴く場合は、本体側の Dolby Atmos をオフにしてください」という、一見意味不明な注意喚起を行わなくても良くなる。ハイブリッドにすることで、「Dolby と DTS が喧嘩しちゃうので、DTS の方はオフにしてくださいね」とかで済む。

個人的に Amazon Music の空間オーディオの問題点は、ソフトウェアデコードオンリーであるということよりも、そのことによる注意点をきちんとユーザーに周知徹底していないことにあると考える。こういった重要な情報は、きちんと公開していただけるよう願いたいところだ。


井戸水

ガジェットやオーディオビジュアルが好きな人。

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